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2024年04月30日
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地下室の手記

2009年01月23日
 初めて「地下室の手記」を読んだのは3年くらい前だったと思う。先輩の家に遊びに行ったときに本棚にあったのを借りて読んだ。中篇小説なので新幹線で東京大阪間を往復する間に読み終えたのだが、これが物凄くおもしろかった。こんな本は読んだことが無い。作者は本当に頭が良くて文章が上手いと感動したものだ。
 「地下室の手記」はドストエフスキーの書いた中編小説だ。

市役所職員の中年男が、親戚の遺産を継いだことをきっかけに役所を辞めて、地下室で引き篭もり生活を始める。そしてこれまでの人生を手記に書き始める… 
 
というのが本書のあらすじだ。前半の3分の1ほどでは男の思想や主張が独白形式で語られ、後半3分の2では男が体験した非常に印象的なエピソードが物語り形式で語られる。

 最近本屋で「地下室の手記」をたまたま見かけて購入した。こうして久しぶりに読み返してみたのだが、これがやはり抜群におもしろい。ドスト氏といえば「罪と罰」とか「カラマーゾフの兄弟」が有名だが、私は断然地下室のほうが好きだ。本書には異様な迫力や、キワモノが持つ熱を感じる。主人公は風采のあがらない男だが、じつに頭の良い男である。フィクションの中でも、こんなに頭の良い人間は見たことが無い。これは要するに作者であるドスト氏が優秀なんだろう。漫画とかラノベを見てると、天才的に優秀なキャラクターがよく出てくる。でも、殆どのそういった「天才」って凄く薄っぺらい。IQ150とか難問を瞬時に解くとかメガネで無口とか変な癖があるとか子供の頃から抜きんでていたとか異常性があるとか…つまり「天才っぽい」記号をあてはめたキャラクターを、その他のキャラクターに賞賛させているだけなんだよね。一方、地下室の主人公はすごい。天才的なエピソードなんて全然ないし、賞賛してくれる人もいない。というより話をするような友達すらいない。お金も無くて背も低く顔もパッとしない。つまり、記号的に彼の優秀さを示すようなものは何も無いのだ。しかし彼の発言と行動から、彼は実はとんでもなく頭の良い人間なのではないかということが知れるのだ
 結局、物語の登場人物は作者の知性を超えられないんだと思う。優秀なキャラクターを出そうと思っても、結局そのキャラクターの思考を決定するのは作者な訳だから、どんなに頑張っても作者より優秀なキャラクターは無理ということ。そういう意味ではドストは本当に優秀でよく考える人だったんだなあ。
 本書は前半の3分の1で退屈になって挫折する人が多いと思う。でも後半は本当におもしろいから是非読むことをお勧めする。あまりにも苦痛だったら前半は全部飛ばしてもいいけどね。特に話が分からなくなるとかいうことはない。ただ、私は前半もかなりおもしろいと思ったけど。あと、本書を買うなら新潮文庫の江川卓訳がお勧め。最近出た新訳はイマイチだから、是非江川卓訳で。
 ちなみにこの本を貸してくれた先輩は、最初の3ページしか読んでいないらしい。
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